アーユルヴェーダとは?その基本的な考え方
“生命の科学”アーユルヴェーダは、環境や人間同士、そして自分自身と調和して生きるための、インド古代からの叡智です。インドの精神的伝統、サナータナ・ダルマ(永遠の真実)の一部であるアーユルヴェーダは、ハタ・ヨガとも深く関連しています。どのようなものなのか、まずは基本的な考え方などを見てみましょう。
アーユルヴェーダとは?
起源、言葉の意味
アーユルヴェーダは、インドに起源を持つ医学を中心とした、およそ6,000年の歴史を持つ、生き方、そして人間の究極の目的へと向かうための叡智です。
アーユルヴェーダという言葉は、“ayus”と“veda”という2つの言葉に分けることができます。
“ayus”=生命
“veda”=叡智、もしくは科学
つまり、2つを合わせると“生命の叡智”、もしくは“生命の科学”という意味になります。
アーユルヴェーダにおいては、“ayus”は肉体、感覚器官、感情、精神/心、そして魂の全てが結びついた状態と考えられています。また、“ayus”には生命の全てのステージ、誕生、幼少期、青年期、壮年期、老年期、死、そして死の先にあるもの、永遠までが含まれています。
考え方の基本
アーユルヴェーダの主な目的は、病気の予防、治療、治癒/養生であり、次の4つの段階において健康を増進させることです:
- 肉体的
- 精神的
- 感情的
- 魂
サナータナダルマ(永遠の真理)やヨガとの関係
アーユルヴェーダは、インドの霊性の伝統であるサナータナ・ダルマの一部であり、ヴェーダーンタに深く根付いています。アーユルヴェーダは、4つのヴェーダ全てにおいて言及されています。アーユルヴェーダは、いかに幸福、健康、平安で、そして自然と調和して生きるかという智恵を与えるとともに、真我の悟りという究極のゴールを求めるための洞察も示しています。
そして、ヨガとは深い相関関係があります。アーユルヴェーダもヨガも、古代のリシ(聖賢)たちによって発見されたものであり、健康であるためにどのように調和とバランスを得るかを教えてくれます。しかし、そのさらに深い目的は、それによって真我の悟りを得る機会をもたらそうというものです。
アーユルヴェーダは、悟りを得るために必要な道具である肉体、魂の乗り物である肉体を、どのように維持管理していくかを教えてくれるのです。
体の構成要素ーパンチャ・マハーブータ(5大元素)
アーユルヴェーダ、またはヒンドゥイズムの中では、創造物は次の5つの要素から成り立っていると考えられています。これらの要素は、精妙で物質的ではない領域で体験されるものです。
1. アーカーシャ ー 虚空、エーテル
空間は、私たちが存在するところ、創造の舞台となる‘場’です。
例えば、私たちの肉体の細胞にも空間はあります。
空間は、5つの要素の中で、もっとも精妙なものです。この元素は、考えやアイデア、自分の表現などとしても現れます。そして、あらゆる物の間を行き来して関係性を作っているのもこの要素です。
アーカーシャは、次のような性質で表されます。
- 拡大
- 精妙
- 軽い
- 明瞭
- 無限
- 永遠
2. ヴァーユ ー 風、空気
虚空が動くと、風、空気として現れます。
感覚を起点とする生物学的な機能は、この風の機能によるものだと考えられています。また、思考の動き、欲望の流れ、精神の機能なども、この風の機能と考えられています。
風は、常に流れ動き続け、変わり続けます。
ヴァーユは、次のような性質で表されます。
- 軽い
- 流動的
- 明瞭
- 乾いた
- 不安定、荒い
- 変わり続ける
3. アグニ、テージャス ー 火、光
風が早く動くと、摩擦が起き、熱が生じます。それが、私たちが火、もしくは光と呼ぶものです。
火は、物質をある状態から別の状態へと変化させます。
例えば、私たちの体の機能としては、消化、吸収などの働きとして現れます。
また、火は認識の機能も持っています。火または光は、肉体の目、そして内なる洞察の目を通して、外側と内側に認識をもたらします。
アグニもしくはテージャスは、次のような性質で表されます。
- 熱い
- 鋭い
- 流動的
- 貫通する
- 洞察力、聡明
- 軽い
- 明るい
- 上昇
- 分散
4. ジャラ ー 水
火が凝縮すると、水の性質が現れます。
私たちの肉体は、主に水から成っています。
血液の流れ、リンパ液、唾液、ホルモン、その他体を流れるものは、体の各部へ必要な様々なものを運搬、伝達し、そして不要なものを排泄する機能を持ちます。
また、育むという機能にも関連しています。子宮や生殖などの過程だけではなく、思考の生まれる過程にも関係しています。
ジャラは、次のような性質で表されます。
- 流動的
- 重い
- 湿った
- 潤滑性、滑らか
- 冷たい
- 柔らかい
- 粘着性
- 安定
5. プリティヴィ ー 地
水が凝固すると、地の性質が現れます。
肉体の硬い部分は、この地の性質の機能によるものです。
この性質は、創造物を維持する機能があります。
また、この地の性質は、前述の4つの性質を10分の1ほど含んでいます。
実際のところ、5つの要素は、その前に紹介したものの性質を少しずつ含んでいるのです。
虚空は、それ自身だけで存在する、あらゆる創造の基底要素です。
風は、虚空を含みます。
火は、虚空と風を含みます。
水は、虚空と風と火を含みます。
そして地は、それ以外の4つの要素、虚空、風、火、水の全ての性質を含みます。
プリティヴィは、次のような性質で表されます。
- 厚い
- 密度の高い
- 硬い
- 固体
- 重い
- 安定
体質ートリ・ドーシャ(3つのドーシャ)
アーユルヴェーダでは、自然や人間の体に影響を与えるエネルギーが存在すると考えられています。
それが、アーユルヴェーダのもっとも基本的かつ特徴的な原理である、“トリ・ドーシャ”=3つのドーシャ(性質、体質)です。
アーユルヴェーダの考え方では、この宇宙のあらゆるものは、前述の5つの元素が様々に組み合わさって、3つの性質を示していると考えられています。肉体も、構造上は5つの元素から成っており、その働きは3つのドーシャに支配されていると考えられています。
ドーシャという言葉自体の直接の意味は、“不純物”“バランスの取れていないもの”などです。ドーシャのバランスが崩れることで、病気や不調などの原因となることを表しています。
ドーシャのバランスは、食事、時間、季節、ストレス、天体などから影響を受け、変わっていきます。また、そのバランスは、肉体、精神、魂のレベルと密接に繋がり、影響を及ぼしあっています。この3つのドーシャのバランスを取り調和を保つことが、アーユルヴェーダの目的の一つでもあります。
以下、順にドーシャを見ていきましょう。
1. ヴァータ
ヴァータは、創造物全てに内在するエネルギーの流れ、もしくはプラーナです。
構成要素:虚空と風
場所:結腸、大腿部、臀部、耳、骨、聴覚と触覚に関わる器官[主要な場所:結腸]
機能:呼吸、動き、柔軟性、生物学的なプロセス全般
神経系、感覚、精神的活動
性質:乾いている、軽い、冷たい、流動的、活動的、明瞭、収斂及び分散
日中の時間:14:00~18:00、2:00~6:00
2. ピッタ
ピッタは、火のようなもので変容する力があります。ピッタは、消化の炎などの形で現れます。
構成要素:火
場所:小腸、胃、汗、皮脂腺、血液、リンパ液、目
機能:消化、代謝
性質:熱い、少し湿っている、軽い、精妙、流動的、鋭い、柔らかい、滑らか、明瞭
日中の時間:10:00~14:00、22:00~2:00
3. カパ
カパは、物を結びつけ、創造を確固なものにする働きを持ちます。
構成要素:水と地
場所:胸部、喉、頭部、膵臓、胃、脂肪、鼻、舌
機能:肉体に栄養を運ぶ、骨と筋肉を結びつけ支える
性質:重い、遅い、冷たい、油っぽい、湿っている、粘液性、鈍い、柔らかい、不活発、曖昧、粗雑
日中の時間:6:00~10:00、18:00~22:00
食物などの属性ートリ・グナ(3つの属性)
サーンキヤ学派では、あらゆる創造物ー精神や思考などの目に見えないものも含むーには、3つの性質(属性)があると考えられています。それが、トリ・グナ、3つの属性と呼ばれるものです。アーユルヴェーダでは、トリ・ドーシャが主に肉体に影響する性質、トリ・グナは精神の性質として考えられています。
また、アーユルヴェーダで重要な食べ物にも、トリ・グナが関係しています。それについては、インドの叡智バガバッド・ギーターの中で、クリシュナ神によって言及されています。
では、それぞれの属性について見てみましょう。
1. サットワ(サットヴァ)
サットワは、純性です。
性質:明瞭、軽い、純粋、無垢、平穏
サットワの属性が強くなると、精神がいつも平安で幸福感に満ち、物事をはっきりと明瞭に理解し決断することができます。また、個性の良い面が育まれ、思いやり深くなり、他人や世界に対して良いことをしようと考え行動します。
サットウィックな食べ物については、バガヴァッド・ギーターでは次のようにクリシュナ神が述べています:
“サットワの人の好む食物は 生命力を増進し 体を浄化して 力と健康と幸福と喜びをもたらし 水分と脂肪に富み健康的で心を和ませる”
ーバガヴァッド・ギーター第17章8節
具体例:
・ギー(精製されたバター)
・新鮮な果物
・精製されていない米、小麦
・豊かで健康な土で育ったものー農薬や不必要な化学肥料、ホルモン剤、抗生物質などを使わずに生産された食物
・ココナッツ
・アボガド
…等
2. ラジャス
ラジャスは、激性、動性です。
性質:動的、刺激、優柔不断、不安
ラジャスの属性が強くなると、精神が活動的になり、外側の世界により意識が向くようになります。そのため、様々な欲求が生まれてきます。ラジャスは、性欲やお金に対する貪欲さ、物質的な贅沢に対する欲求と執着なども生み出します。ラジャスのバランスが崩れると、怒り、敵対心、嫉妬、病気、イライラ、貪欲、執着、自己中心的などの性質が出てきます。
ラジャシックな食べ物については、バガヴァッド・ギーターでは次のようにクリシュナ神が述べています:
“ラジャスの人の好む食物は 苦味 酸味が強いもの 塩からいもの 熱いもの 乾燥したもの 刺激性のもの こうした食物は心身の病の原因となる”
ーバガヴァッド・ギーター第17章9節
具体例:
・辛いもの
・酸っぱいもの
・玉ねぎ、ニンニク
・肉食
・刺激の強いもの
・匂いの強いもの
…等
3. タマス
タマスは、鈍性、暗性です。
性質:無知、抵抗、重い、暗い、妄想、怠惰、眠気、無感動/無気力
タマスは、破壊、解体、衰退、暗闇という性質を持ちます。精神および魂にとっての暗闇とは、無知です。タマスの属性が強くなると、精神が不活発になります。また、感情や欲求の抑圧が生まれ、鬱を引き起こす場合もあります。タマスのバランスが崩れると、執念深さ、暴力、憎悪、犯罪、動物的性質、妄想、利己的、物質主義などの性質が出てきます。
タマシックな食べ物については、バガヴァッド・ギーターでは次のようにクリシュナ神が述べています:
“タマスの人の好む食物は 古いもの味のないもの 残り屑 またはそれが入っているもの それから 不浄なもの ”
ーバガヴァッド・ギーター第17章10節
具体例:
・腐ったもの
・アルコール
・添加物の多く入ったもの
・古い食べ物
…等
食に対する意識の持ち方
私たちが生きていく上で欠かせない、食べるという行為。
何を食べているか、どのように食べているか、どれほど意識を持って行っていることでしょう?
何を食べているかに意識を向ける
今、食べようとしているものは、何ですか?どこで作られたものですか?何が含まれていますか?
一つ一つ気づきを持って、味わって食べましょう。
知識と理解を深めていくにつれて、食物の選択も変化してくるでしょう。ただ、それにとらわれすぎてはいけません。それもまた執着に変化していくからです。
食物の背景に思いをめぐらせる豊かな想像力を持ち、感謝を感じましょう。
そして、その心と共に、知識や理解を深めていきましょう。
食べ方
清潔で、落ち着いた静かな環境で食べることが勧められます。
ですが、仕事上、もしくは育児などでそのようにはいかないことも多々あります。
ですから、自分の今できる範囲で構いません。少し心を落ち着け、感謝の心を感じてください。
そして、食べている瞬間にいるように心がけてみてください。
いつも食べていたものの味わいが、少し変わってくるかもしれません。
何かをしながら食事をすることは、体にとっても心にとっても消化の妨げになります。できる限り、食べることに集中してみてください。
アーユルヴェーダ ー モークシャ(解脱)へと向かうための魂の乗り物ー肉体ーの維持の方法
インドの哲学は、私たちは肉体ではなく、アートマン(真我)であると教えています。ヨガにおいては、そのアートマンー至高なる真我、神と一体となることを目指します。
アーユルヴェーダは、その魂の旅において重要な道具である肉体、魂の乗り物としての肉体を、いかに最高の状態で維持するか、いかにその目的地までスムーズに運ぶかという知恵を示しています。
今回は、その基礎となる知識をご紹介いたしました。
アーユルヴェーダの叡智を取り入れ、真我、肉体、ひいては環境や母なる地球、そして全宇宙との調和を取り戻していきましょう。